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東京高等裁判所 昭和43年(う)2531号 判決 1969年4月09日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

<前略>

第二に、所論は、右条例が憲法第二一条に違反しないとしても、同条例第四条の規定の内容は警察官職務執行法第五条の範囲を超え、憲法第九四条に違反するものであるから、右第四条に基づく規制は不適法な職務執行である、と主張する。いうまでもなく、条例は憲法第九四条に基づき、「法律の範囲内で」(憲法第九四条)、「法律に違反しない限りにおいて」(地方自治法第一四条第一項)のみ制定することができるものである。よつて右条例第四条が、所論の主張するように、警察官職務執行法第五条との関係で右の有効要件を欠くものであるかどうかについて考えるに、まず、右条例第四条に規定する「制止」については、警察官職務執行法第五条中にもその定めがあり、両者は、共に、公共の秩序を保持するための手段として設けられた警察上の即時強制であるという点においては、趣旨・目的及び対象を同じくするものであるといえないこともないが、より具体的に、その発動の場合を考えて見ると、両者の趣旨・目的及び対象が同一であるとは必ずしもいえないから、右条例第四条は、すでに法律により定められた事項について重ねて「制止」の規定を設けたものということはできない。而して警察官職務執行法は、警察官の職務執行手段につき詳細明確な規定を設け、同法第五条も右の如き即時強制の要件を厳格に制限し、警察官の職務執行による人権侵害の防止につき慎重な配慮をしているのであるが、右のような同法の精神を充分考慮に入れても、同条が「制止」を合理的なものたらしめる場合を網羅的に考慮した上、「制止」をなしうる唯一の合理的要件として同条所定の要件のみを取上げたもので、条例で右以外の場合における「制止」の規定を設けることを禁ずる趣旨であるとは認められず、むしろ、公安の維持のため合理的で且人権に対する配慮が尽されている限り、条例による規制の自由を認めているものであると解するのが相当である。そこで、右条例第四条を仔細に検討すると、なるほど、所論のように、権力発動の要件が警察官職務執行法第五条に比し或る面においては緩和されている点もないではないが、右条例においては、第四条に掲げる事項又は規定に違反した集会、行進、又は集団示威運動が現実に行われ、その結果公共の秩序が乱される虞れがある場合に、その参加者に対し制止その他の規正をすることができるものと解すべきであつて、原判決も判示するように、実質的にみて右要件が緩かであるとはいちがいにいいがたく、「公共の秩序を保持するため」という要件も、その趣旨は原判決の判示するとおりであつて、これが所論のように漠然とした概念であるとはいえない。又所論のように、必要な措置の具体的内容は定められていないが、右条例の目的に照らし自らその内容は限定されるものと考えられ、全体として同条例の目的遂行のための手段として合理的で且人権に対する配慮も十分尽されているものと認められる。以上説示したところを総合すると、右条例第四条は、警察官職務執行法第五条の規定の範囲を越えてこれに違反し、或は同法の精神趣旨に反するものとは考えられず、所論のように権力発動の要件が或る程度緩和されていると解しても右結論を左右するに足りないので、右条例第四条が憲法第九四条に違反するものと考えることはできず、右違憲を前提とする所論は採用できない。

(その余の判決理由は省略する。)

(脇田忠 関重夫 環直弥)

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